『想いは主従という壁を越えて』









 見事な勝利を収めた戦の後、盛大な宴が催されました。
 そんな中、姫君に連れられこっそり宴を抜け出した幸村。
 二人は満天の星空の下、星の数を数えるのでした。

 いつか躑躅ヶ崎館……武田信玄の元へ戻ることを夢見て。





 幸村は半歩後ろで、姫君が星を数えるのを見守っていた。
 幾多もの戦を切り抜け、今ここにある自分、そして目の前の……大切な人。
 それが心から嬉しく想う反面、いつ何時この幸せが壊れてしまうかもしれない。
 失いたくはないと、強く願う幸村。

 いつもならそんな事はしなかっただろう。
 酔いもあったのかもしれない。

 「……姫様」
 「なあに?」
 「……申し訳ございません。少しだけ……こうさせてください」
 「……えっ!」

 彼の熱い想いは主従という壁を越えて……姫君をその腕の中に抱きしめていました。





 無邪気な表情で星を数える貴女を見ていたら、……なぜでしょうか。
 私の手の届く場所から離したくないと。
 そんな想いが浮かんだ瞬間、貴女をこの腕で抱きしめていました。
 やはり違うのですね。……その、思ったよりも華奢でいらっしゃいましたので。
 ……戦場で武を振るう将とは言え、貴女はやはり姫君であらせられます。

 私らしくない自惚れだとは承知しております。
 今この瞬間だけは、貴女をお守りするのはこの私を置いて他にはいないのだと…
 …そう思わせて下さい。

 幾久しく……お傍におります。





 星を数えていたら、ふいに背中に温もりを感じた。
 一瞬何が起こったか分からなくて。
 そして、今まで一番近い距離……耳元から聞こえて来たあなたの、優しい声。

 この温もりがあなたのものなんだと分かった瞬間……声が詰まった。
 嫌じゃないの。でも跳ね上がった鼓動は収まってくれない。

 あなたはそっと囁いた。
 私を守るのだと、ずっと側にいてくれると。

 いつも一緒に戦って、一緒に泣いて、一緒に笑った。
 家臣だし、友だとも思っていた。でも、あなたの見え方が今はなんだか違う。
 私を守ると言うあなたが……こんなにまぶしく感じるなんて。

 ……この想いは……何?





 ― 終 ―




 投稿者様 : 波音まはな様     サイト : Kuulei 様

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