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言葉より単純なこと。










昼間の猛暑は何処へやら…。
今は夜の帳がすっかり下りた宵。
涼しげな風が少し開いた窓から穏やかな空気を連れて来る。
…一日の終わり。
ようやく執務から解放されるんだ、と思ったら…
私の顔から自然と笑みが零れた。





廊下から足音が聞こえ、近付いて来る。
今宵も変わらずに…私の所へ。
最近はよく聞かなくても、それがあの人の足音だって直ぐに解るようになった。
特別、変わった特徴があるわけじゃない。
と、言うより…気配を消しているような忍んだ足音は余程気を入れないと足音か何かすらも判断が難しい。
でも…なんとなく私には解ってしまう。
それが、『あの人を愛している』って事なんだろうけれど。





英蓮、入るぞ」
静かな室内に待ち侘びた声が響いた。



…やっぱり。
間違いなかった…。

張、文遠。
今、私がこの世で一番だと思える…男(ひと)。



扉を叩く事なく入って来るのは何時もの事で。
最初は流石に驚いたりもしたけれど、いい加減慣れた。
…私自身が、そういう強引な処に惚れてしまったのだからしょうがない。
それ―強引な処―は、彼も自覚しているし。
恋仲になった時の
『このような奴でも、構わないと言うのか…そなたは』
と、少々驚きながらも笑ってくれた彼の表情は未だに忘れられない。
だって、普段見ることのない可愛らしいものだったから。





「遅くなってすまない、英蓮。 雑務で少々時間を取られた」
少し疲れたような笑みを浮かべて、後ろ手で扉を閉める文遠。
そして…部屋に入って早々、私の肌に触れてくる。
頬、肩、腕と滑り降りていくその無骨な手指も好き。
私が医師として何度も診、そして女として何度も受け入れてきた。
男性らしい…いや寧ろ武人らしい、と言うべきその手…。
それが、遂に私の腰を捉える。
身体がぐい、と文遠の方へと引き寄せられた。



間近に、文遠の顔が迫る………。

私は…視線に促されるまま、そっと瞳を閉じた。





重なり合った唇を緩やかに離し、私はほぅと一つ溜息を吐いた。
熱を帯び、濡れた唇。
その両端をちょっと吊り上げて、私は微かに笑う。
「今夜はもう来ないかと思っていたわ、文遠」
でも…来てくれて嬉しい、と再び文遠の胸に頬を預けた。
寄りかかる私の身体をしっかりと支える腕が頼もしい。

私も………甘えん坊なのかな。

文遠に身も心も完全に委ね、私はこっそりと思った。





「疲れてない?」と言う私の頭に手を乗せて
英蓮。 心配には及ばぬ…私がそなたに逢いたかった、それだけ故」
後ろで一つに結った髪の流れに合わせるように撫でながら文遠がふっと笑った。
その心憎い笑みは。
私が今、一番望んでいたものに違いない。
私の心に、先程与えられた熱とはちょっと違った暖かさを運んできた。
自然と言葉が溢れ出てくる。
澄んだ川にある…湧き水のように。
…普段は照れくさくて口に出すのも憚られるようなものでも………。
「ありがとう…。 大好きよ、文遠…」
しかし。
『愛してる』 と綴ろうとした言葉の続きは、文遠の唇で塞がれた。
頭を両手で抱え込まれ、離す事が出来なくなる。
…離すつもりもないけれど。
刹那、唇の間から再び熱いものが差し込まれ、考える事が出来なくなる程私の中を蹂躙する。
ぼうっとしていく頭の中で私は一つだけ、思い至った。



やっぱり。
………言葉は要らん、と言う事ね…文遠。













以前、私達はちょっとした 『賭け』 をした事がある。
時を少し遡ったある晩の事。
………話の発端は文遠だった。





英蓮、賭けをせぬか?」
「へっ? 賭け? 何よ…いきなり」
私は素っ頓狂な声を上げて驚いた。
普段から実直な彼が、 『賭け』 など口にもしないと思っていたから。
その彼が、唐突に提案した。
それは…。

「どちらか…先に言葉を口にした方が相手の言う事を聞く、というのはどうか?」





勝負は目に見えている。
私は沈黙が苦手だった。
医療器具の触れ合う音や薬剤を調合する音。
そして…人と人との語らいや様々な人々の声。
幼い頃からその中で育ってきた私は。
音のない…声のない世界が、途轍もなく怖いものとして私の心に植えつけられていた。

その私が…無言のまま居られるわけがない。

始めは、そう思っていた………。







この時、私は…。
語る事なく過ごす時間も、愛する者とならば心地よいものになると知った。
声を発さない事で…更に研ぎ澄まされる他の感覚。

何時もと変わらない天井の染みや木の継ぎ目。
部屋を横切る風の音や、それによって流れていく空気。
窓の外でさわさわと揺れる草木の気配や少々足早に響く虫の音。
そして…傍らに居る、愛しい人の息遣い。

それら全てが私の心を優しく包み込んでいく。
…実に単純な事だった。
こちらが心を開き、受け入れれば…沈黙の世界も怖くない。
それを教えてくれたのは、今目の前に居る人。
私は、『ありがとう』と感謝の気持ちと共に文遠の首にぶら下がった。

…賭けの途中だったから、言葉にはしなかったけれど。







一瞬にして組み敷かれ、身に付けている衣服を全て剥ぎ取られる。
…素早いけれど、優しい手捌き。
肌を滑る布の感触に身動ぎしながら、私も同じように文遠の衣服の紐を解き、肩から外していく。
その途中で…。
思わぬ方向から文遠の手が私の身体に伸びてきた。
敏感な腋から腕が差し込まれ、片手で抱きしめられる。
「…!!!」
意図的な文遠の手に。
そんな手に乗るか!と言わんばかりにはっと口を手で押さえ、声を寸でのところで止めた。
それを見て、文遠が僅かに唇の端を吊り上げて笑う。
『これで終わっては面白くない』とでも言いたげに。

…まだ、余裕があるみたいね。 お互いに。



双丘の頂…紅く主張する突起が文遠の口に咥えられ、不規則に吸われても。
内腿を撫で上げられ、中心で潤いを帯びる窪みに指を挿入れられても。
激情に溢れ、熱くなっているそこを思い切り蹂躙されても。
…私は、声を上げなかった。
それは…気持ちよくないから、では決してなく。
必死に…もう、これ以上ないくらい堪えていた。
…次々に迫り来る快感の嵐に。
声を上げられない。
この事が…何時になく私を更に敏感にさせる。

そして、遂に… 「賭けに負けてもいいから声を上げさせて!」 といった感覚に陥る。
それでも、声が出せないのは。
『女としての意地』なのか、はたまた『負けず嫌い』なのか。



結局。
先に声を上げたのは文遠の方だった。
猛り狂う本能を私の中に差し込み、腰を突き上げていく文遠。
私の腰を支える力強い手。
逸らす事なく、ずっと私を見つめ続けてる瞳。
そして…何時もより熱く感じるその昂ぶりから。
彼の情念が私にも伝わって来た。
『そろそろだ…』 と。
私も…意識が遠のいていく………。





刹那。
「………んで、くれ…」
文遠の口から僅かに声が漏れた。

しかし、ここまで来たお互いの意識の中に 『賭け』 という代物は最早存在しなかった。
文遠の昂りが更に熱くなり、身体が僅かに震える。
英蓮っ  …私の名を…呼んで、くれ  英蓮っ」
「く、はぁっ…文遠…好き、うぅんっ  あい、してるっ」
「私もだ… 英蓮、愛している  …一緒に」
「うんっ! 文遠… 一緒、にっ…」



息せき切ったように上げられた声は。
気をやった二人の意識に溶け込まれていった………。








結局のところ。
文遠(私も、だけど)はこの 『賭け』 を存分に楽しんだ。
私は勝ち負けなんてどうでもよくなった。
律儀な彼は
『始めに声を出したのは私だ』 と言って譲らなかったけれど。

…解ってた。
『賭け』 を提案した文遠の気持ち。
沈黙が怖かった私に。
沈黙の世界も悪くないって教えようとしてたんだって。



英蓮。 …一応、そなたの望みを聞いて置こう」
「望み? …そうねぇ…」
文遠の言葉に、私は一応考えるフリをした。
望みは…既に叶えられているものだけど、この乱世…この先、何が起こるか解らない。
だからこそ、今一度…確かめたいもの。
私は唇の端を一杯に引き上げ、にぃっと笑うと文遠に抱きついた。





私は何も要らない。
文遠…。

この先も…

貴方が生きて、私の傍に居てくれるのなら………













英蓮…そなたを愛…」
改めて紡がれようとしていた文遠の言葉を。
今度は私自身の唇で塞いだ。



文遠の手が私の髪を纏めている紐に触れる。
優しく解かれた髪がはらり、と背中へと落ちる感覚に私は軽く身震いした。
これは…二人の 『合図』 。

今宵も、私達は宵の闇に溶けていく………。







私達にとって、言葉は左程必要ない。

触れる肌や触れる心で…確かさに満ちた喜びを感じ合う。

それは、言葉にするよりも単純な事。





あなたを、愛してる ……… って事。







劇終。





アトガキ

懲りもせず、裏を書いてしまいますた管理人です orz
すみません…(最近謝ってばかりだな、自分)。

久し振りの山田様…ということで。
軍医ヒロインを相手にオトナな甘い夢でも書こうと思った私が悪かった(何
オトナどころか…ヌルイ裏。
管理人の欲求不満がそのまま文章になった模様!(ダメダメだな
しかも、実直な山田様がエロおやぢ化…!
まぁ…その辺はオトコの本能、ということでよしとします(ぇ

このようなヌルイ夢でも。
少しでも楽しんでいただけたら幸いですw
ここまで読んでいただき、ホントにありがとうございました!

2007.8.30     安土 焔@管理人 拝

使用お題『言葉より●●こと』。
(「何でもよさそうな?お題」より)

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