久々の休暇が貰えた。
その一言に心躍らせ、その日は城下に遊びに行く事になった。
ここ数ヶ月、凌統と遊ぶ時間なんてなかっただけに、
嬉しくて嬉しくて、思わず頬が緩む。
「今日はね、いっぱい買い物したいの!」
「買い物?例えば?」
「髪飾りとか、美味しいお菓子とか・・・えーっと。」
沢山考えていたのに、指折り数えては忘れていく。
それほど今日は嬉しくて、実際一緒に居るだけでも良かったくらいで。
必死に思い出そうと歩いていると、隣から大きな掌が頭に降って来た。
「ま、店の前通ったら思い出すだろ?のんびり行こうぜ。」
「・・・うん!」
"のんびり"という言葉が無償に嬉しい。
今日は嬉しいことばかりだな、と思わずスキップで駆け出す。
幼い頃のように、心配事なんて何もない。
「全く。うちの姫さんはじゃじゃ馬だねぇ。」
凌統は、見失わない程度に歩いてついて行った。
「わ。すごい人が多いね。」
「そうだな。べつに祭でもないのに・・・。」
思わず立ち竦むほどの人の多さ。
どこかのお店で大安売りでもしているのだろうか?
ならば早く行ってみたいと思うの手を、慌てて掴む人が居る。
もちろん、その人は凌統。
「ちょっと!あんた一人じゃ迷子になっちまうっつーの!」
「大丈夫だよ〜。それより早く行こ!!」
「走らなくても大丈夫だって。まだ昼時にも遠いから。」
「そう?」
「ああ。だから歩いて行くぞ。」
きちんと手を繋ぎ直し、ゆっくりと人ごみの中へ。
前を見ては全く分からないけれど、上を見ればすぐに見つかる彼。
その立ち姿に惚れたんだと再度認識し、握った手に力を込める。
当然のように、凌統もきゅっと力を込め返してくれる。
本日二度目の、笑みが零れた。
「。小物屋見えたぞ。」
「やったぁ!行こ行こ!」
「だから走るなっつの!迷子になっても知らないからな?」
「大丈夫!凌統なら絶対見つけてくれるから。」
「・・・っ。」
「ね?何も言い返せないじゃん。」
悪戯に微笑むが眩しい。
随分屈まないと視線が合わない位置にあるその顔は、
いつも俺を悩ませる。
大切にしたいけど、でももっと先まで求めてしまう時。
泣かせてしまって、それでも笑っている痛々しい笑顔の時。
満面の笑みだって、寝ようと思えば瞼に焼き付いていて・・・。
いつからか、俺の生活は中心だ。
「よし!やっぱりこっちに決めた!」
「なに、もう買うの決めたんだ?」
「うん!前から欲しいの選んでたの。」
「へぇ。そんなに前から?」
「うん。前に凌統と遊んだときから!」
「・・・。」
頭痛でもしているかのように額に手を当て、それでも口は笑っている。
そんな彼の言わんとする事がわからない。
「そんなに前からなら言ってくれればいいのに。」
「どうして?」
「いや、俺がに贈り物として、さ。」
「え!?駄目だめ!絶対駄目!!」
「そんな全身を使って拒否しなくても・・・。」
正直へこむじゃないか。
「だって一緒に買い物するのが楽しいんだもの。」
「・・・またそんな不意打ちを・・・っ。」
やっぱりの笑顔が眩しい。
が喜ぶなら何でもしようと思っていた自分が、おこがましく感じられた。
「でもさ、ならこっちも似合うんじゃない?」
「え?あー・・・本当だ。それ可愛いね。」
「その髪飾りと、この耳飾りとか。」
「可愛いー!凌統、合わせるの上手!!」
「お褒めに預かり光栄ですっと。」
楽しそうに拍手すると、大袈裟に礼をする凌統。
端から見なくても立派な恋人同士の二人の空気は、
ほのぼのしていて、それでいて微笑ましい。
凌統の助言もあっていくらか考え直し、買う物が決まった。
それをできるだけ丁寧に包むようにと、凌統が店主に告げる。
「そんなに丁寧じゃなくてもいいのに。」
「丁寧で困る事はないだろ?」
「まぁ、そうだけど。」
包まれた物を凌統が受け取り、また二人で歩き出す。
すぐ近くのお菓子屋さんで一休み。
いつもは即決のはずの凌統が、品物決めにとても時間をかけていた。
いつもはより早く食べ終わるはずの凌統が、
今日はとほぼ同時だった。
その店を出て、また歩き出す。
「、疲れてないか?大丈夫?」
「うん、平気!」
「そっか。」
いつもの事だが、凌統はの歩幅に合わせてくれる。
荷物も持ってくれるので、寧ろこちらが心配になるくらいだ。
でも一度それを言った時、
「一応武将なんでね。心配ご無用。」
と軽くあしらわれてしまったので、思うだけにしている。
随分、日が暮れた。
そろそろ帰らないと時間的にまずいだろう。
先程と同様に、同じ歩幅での隣を凌統が歩く。
「ごめんね。荷物多くなっちゃって。」
「どうってことないけど・・・。」
「けど?」
「荷物持っててと手繋げないのは残念だね。」
「えっ!?ご、ごめん!」
「いちいち照れてくれるなんて、嬉しいね。」
「もぅ・・・。でも今日は随分長い時間遊んだね。」
「そうだな。いっぱい時間使った。」
「そう!凌統がいっぱい時間使ったのは珍しかったよね。」
小物屋で一生懸命、一緒に選んでくれた時間。
お菓子を選ぶのにかけた時間。
細かいことを言えば、城下に行く時スキップしたを
いつもなら追いかけてくるのに歩いて来た事も。
とにかく歩くのがゆっくりだった事も。
「わざとだよ。」
「え?」
「全部、わざと。」
てくてくと、今日始めての早歩きを見せて、さらに続けた。
「久々の休暇だから、できるだけ長くと居たくて。
わざと時間をかけたんだ。」
暗くてよく分からないけど、もしかしたら今、
彼は顔を赤らめているかも知れない。
自分もきっと赤い。
そんなわけで、闇がずいぶん心地良かった。
執筆者 : 小夜禾様 サイト : 小夜曲様
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