まんまるで愛らしい瞳とか、
少し癖のある艶やかな髪とか、
居心地の良い場所を器用に見つけては寝入る様とか。










あなたは猫のような人










「あれ、じゃん」
くるくると回転上昇する羅針盤と共に現れたのは、他でもないその持ち主。
「半兵衛様」
答えると、小柄な軍師はよいしょっと親父臭い掛け声と共に、瓦の上に腰を下ろした。
も昼寝?」
悪戯っぽく問うと、半兵衛様じゃないんですからと返ってくる。
「こうやって、高所から城下の様子を探るのも忍の務めなんです」

「──
少しだけ、咎めるような響き。
それでも知らぬ顔をしてみると、斜め下から非難がましい目付きで覗き込まれた。
「嘘はつかない、って言ったよね?」
一字一句確かめるように、そう指摘されて。
「──すみません」
やはり勝てないかと、は苦笑した。

「大体、その格好で言われても説得力ないよねー」
そう言って半兵衛が寄越した目線は、の膝の上。
城内でたまに見掛ける野良猫が、気持ち良さそうに喉を鳴らしている。
「でも、寝てたわけじゃないんですよ?」
弁解のようにが答える。
知ってるよ、と半兵衛。
ってさ、一体いつ寝てるの?」
欠伸を噛み殺しながら問う。
常に傍に在る訳ではないが、ついぞこの忍が休みを取っているところにお目にかかったことはない。
「それはまあ、忍ですから」
笑顔で返されて、それはそうだよなあ、と半兵衛は納得した。
彼女の膝の上では、猫が丸くなって目を閉じている。寝付いたのだろう。
その毛並みを優しく撫でていたが、ふと思い立ったように半兵衛の方を向いた。
「─そういえば、半兵衛様って」
「うん?」
「ちょっと、猫みたいなところありますよね」
にっこりと、微笑む

「─えぇー?俺の、どの辺が?」
さも心外だと言わんばかりに、半兵衛が不服の声を上げる。
うーん、とは小さく声を上げた。
「どこが、と言う訳ではないのですけど」
言いながら、猫の耳をちょいちょいと構う
「今だって、昼寝をしに、こんな屋根の上にわざわざいらしたりとか」
「それについてはも人のこと言えなーい」
の手つきを見ていると、まるで自分がされているかのような錯覚に陥りそうになる。
半兵衛は、知らず痒くなった己の耳をがしがしと掻いた。

「それに」
極力、猫から視線を逸らしつつ、の顔を見る。
「猫っぽいっていうなら、の方がよっぽどじゃないの?」
彼女は、半兵衛の方へ顔を向け…ことん、と小首を傾げた。
「わたしが、ですか?」
そうして、ふっと笑みを零す。
「わたしはどちらかと言えば、犬の方が近いと思いますけど」
「えー?どの辺がさ」
「それはもう、豊臣家に仕える忠実な忍で御座いますれば」
「でもそれって、結局はの気分でしょ?」

そうまでピタリと言い当てられては返す言葉もない。
は、少し困ったように眉を下げて笑った。
「敵いませんね、半兵衛様には」
「まあねー。何たって俺天才だし」
そう言って、半兵衛はうーんと心地良さそうに伸びをした。
そのまま、瓦の上へ仰向けに倒れ込む。
「はー、いい天気」
「本当に」
が頷く。
雲一つない青空が、広がっていた。
「これぞ、日本晴れ〜ってね」
歌うように、半兵衛が声を上げる。





「─ここ、さ」
ややあって。
寝入ったかと思った半兵衛が、寝転がった姿勢のままの方を向いた。
「居心地いいでしょ?」
その目は、宝物を見つけた子供のように輝いていて。
「……ええ」
は、素直に頷いた。
ここ、とはこの屋根の上であり、ひいてはこの屋敷であり。
「──もう少し、経って」
ふわあ、と欠伸混じりに半兵衛が続ける。
「寝て暮らせる世に、なったらさ」
ごろん、と横になれば、座ったままのと目が合う。
「そのときは──も一緒に、昼寝してくれる?」
それでは忍のお役御免ではないか、とは思ったが、直ぐに、
ああ、それがこの人の言う『寝て暮らせる世』なのだなと思い至り。

「そうですね──そのときは。」
既に瞼を閉じた半兵衛の前髪を、起こさぬようにそっと撫でた。











執筆者 : 夢果実様    サイト : BAROQUE MIX 様

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