いよいよ遠呂智との決戦の日。
 達はやはりいつもの蕎麦屋付きの宿屋で最後の朝を過ごした。
 最後の朝食は、さっぱり鮭定食である。

 「遠呂智との戦いが終ったら、もうここのご飯も食べられないかもしれないんだよねぇ。」
 「蕎麦屋ならどこにだってあるだろう。」

 ぼそりと呟いたに、政宗がぶっきらぼうにそう答えた。
 どこかしんみりとした空気が蕎麦屋に充満していた。
 耐え切れないように政宗が味噌汁をかっ込む。
 そこへ、幾数かの馬の足音が近づいてきた。
 不審に思い、達は一旦朝食を中止し蕎麦屋を出る。
 そこには、各軍の武将達が一人ひとり馬から降りて、達の前に並んでいた。

 「姜伯約と申します!我ら蜀軍は義勇軍であるあなた方と共に、遠呂智を討つべく兵を挙げることをここにお伝えしにまいりました!」

 姜維が一歩前に進み出て頭を下げ、大きな声で進言した。
 隣に立つ凌統も一歩進み出る。

 「右に同じく。呉軍も協力するってさ。」
 「我らもお味方いたします!」
 「私たちも、華麗に参戦いたしましょう!」

 蘭丸や張コウも達との共闘を声高らかに宣言してくれた。
 朝陽をバックに、なんとも心強い進言である。
 魏、呉、蜀三国の各国たち、そして戦国の武将率いる織田軍が達の仲間になってくれるとわざわざ伝えに来てくれたのだ。
 国も、時代も、世界も違う人々が、ここにを中心に集まった。

 「もう、後には引けぬな、。」
 「・・・・・。」
 「?」

 あり得ない不可思議なこの世界で、あり得ない事態。
 三国戦国の武将が力を合わせることに対し、興奮を抑えきれない政宗は嬉しそうにを振り返ったが、当のはただただ唖然とその場に立ち尽くしていた。
 そんな様子のに、政宗は首をかしげる。

 「やっぱり、止めようか。」
 「はっ!?」
 「何だと!?」
 「貴様、何を考えてるんだ。」
 「緊迫せし状況に、身がすくんだか。」

 の呟いた一言に、政宗たちが一斉に声をあげる。
 けれど、は泣きそうな顔で司馬懿たちを振り返った。

 「やっぱり止める!!だって、遠呂智を倒したら、終っちゃうんだもん。」
 「終る?」
 「この世界が、消えちゃうんだもん。皆ともう、・・・・・・会えなくなるじゃんか。」

 はだんだん声を小さくして俯いた。
 後ろで聞いていた姜維たちも、の心中を知って黙って5人を眺める。

 「貴様は・・・・、そんな理由でこの世界で戦を続ける気か!?」

 司馬懿がそうに怒鳴る。
 は戦を続けたいわけではない。
 けれど、この世界が壊れること、それはにとって一大事なのである。
 もう皆と一緒に歩くことは出来ない、もう一緒に馬に乗ることも出来ない、もう一緒に戦えない、蕎麦も一緒に食べれないし、話も出来ない。
 もう会うことすら叶わない。
 必死で止めようにも、後から後からの目に涙が溜まっていく。
 そんなの肩を、謙信が優しく叩いた。
 揺さぶられる身体に涙が零れ落ちるが、は謙信を見上げた。

 「儂らは、例え離れし時が来ようとも、決してのことを忘れはせぬ。」
 「謙信さん・・・・・。」
 「貴様のその強い武だけは覚えておいてやる。」
 「呂布。」
 「馬鹿めが。元は違う世界の人間だろうが。まぁお前みたいな奴、よっぽどのことがない限り忘れるようなことはないだろうがな。」
 「司馬懿。」
 「、儂らは離れるために戦うのではないぞ。」
 「政宗。」
 「お前は戦が嫌いなのだろう。だから、率先して戦を止める。その一番の近道は、」
 「遠呂智を倒すこと。」

 政宗の続く言葉を姜維が続けた。
 近くまで歩み寄ってきた姜維が微笑む。

 「ま、いつまでも遠呂智の野郎に好き勝手にされたくないし、ね。」

 凌統もそう言って拳を握った。
 蘭丸も、張コウも、達を囲んで頷いた。

 「うん。やっぱり止めないでおく。」
 「そうと決まれば早速遠呂智の元へ・・・・」
 「行く前に、腹ごしらえが先ー。」

 張コウの言葉を遮り、そう言ってはさーっと蕎麦屋へ身を引っ込めた。
 やれやれとそれに続いて政宗たちも蕎麦屋へと入っていく。
 そういえば、彼らは朝食の途中だった。
 しかし残された張コウたちはそこでただ待つしかなく、

 「華麗じゃないです。」

 そう張コウが呟いた。










 場所は火河。
 遠呂智軍はかなりの兵を用意していたが、味方の軍にもは圧倒された。
 魏軍は東から、蜀軍は西から、呉軍は北へ、織田軍は本陣を守る。
 達はというと、まだ本陣で待機していた。

 「一番抜けやすいところから真っ直ぐにお主は進めば良い。」

 それは曹操の指示だった。
 各方面から魏、呉、蜀が攻め、その中で一番抜けやすいところから達は遠呂智の元へと進む。
 要するに、三国の武将達は全て囮という、なんとも壮大な策だ。
 だから達は、抜け道が出来るまで本陣で待機ということになった。
 けれど、中々遠呂智軍を押さえ込むことが出来ず、達は本陣から出ることが出来ない。
 そんな中、各方面から伝令が飛んできた。

 「遠呂智軍の数の多さに後退していた三国軍たちが、増援部隊と合流し遠呂智軍を推し始めました!!」
 「増援?」

 信長が目を細め、秀吉が首をかしげた。
 織田軍は増援部隊など送ってはいない。
 ならば一体誰が味方したのか。
 それは、仙人界を脱走した遠呂智を追いかける者達、伏犠、女カ、太公望らであった。
 遠呂智を捕まえるべく達人間に味方したのだろう。
 そのおかげか、三国軍は一気に形勢逆転し、遠呂智軍を追い込んでいく。

 「、そろそろじゃ。」

 秀吉に促され、達は立ち上がった。
 4人それぞれ馬に乗り、は呂布と共に赤兎の背に乗った。

 「任せたぞ、!」

 秀吉の声を遠くに、達は出発した。
 本陣を抜け、真っ直ぐに馬を走らせる。
 風を切るように、4人は三国軍たちを横切り遠呂智の元へと馬をとばす。
 北東砦はすでに門が開き、誘われるように達は門をくぐった。
 奥には、遠呂智が武器を構えて佇んでいた。
 隣には妲己も並んでいる。
 そんな遠呂智の元へと、周りにいる敵を斬っていく。
 やがて三国軍、戦国軍も達を追って北東砦に辿り着く。
 遠呂智の前まで迫ったは、遠呂智の目の前で剣をかざした。

 「私は遠呂智と出会えてよかった。この世界に来れたから。皆と出会えたから。皆と闘えたから。こんなに沢山の人たちと繋がることができたから。だから、ありがとう遠呂智。」



 それは、の夢。
 無双の世界へ、その世界で生きる彼らと出会い、そして共に歩み、戦い、生きる。
 それは、遠呂智の夢。
 強き者と戦い、自分の中に眠る膨大な力をねじ伏せることの出来る強さを持つものと出会い、いつか終りを迎える生のため。

 は地を蹴り遠呂智へと勢いよく飛び、そしてその手に握る長剣を振り下ろした。
 よろめく遠呂智には剣をふるって、そんな遠呂智を見据える。

 「今の貴方は私には敵わない。今回は私の勝ち。だって私にはこんなにたくさん仲間がいるんだもの。今回は貴方の負け。だから、もっと強くなったら、また勝負しませんか?」

 遠呂智が少し目を見開いて顔を上げた。
 「おい!」と制止をかける人、ただ口を開けてを見る人、やれやれと呆れる人、大声で笑い出す人、何を言い出すんだと慌てる人、柔らかく微笑む人。
 の発言に様々な表情を、の後ろにいる武将達は浮かべた。
 遠呂智は、見開いた目を細めて豪快に笑い出した。

 「此度は人間に負けたか。そうだな、次までに我も精進しよう。」
 「遠呂智様っ!」

 おろおろと遠呂智を見上げる妲己。
 けれど遠呂智はもう武器を下ろしていた。

 「我は、もう疲れた。」

 そう言った遠呂智の身体がどんどん見る間に小さくなっていく。
 小さく、小さくなり、やがて小さな蛇へと遠呂智はその姿を変えた。
そ の蛇は地を這いやがての剣の柄へと巻きついた。

 人の強さとは、何であるのか。
 それを確かめるためか、はたまたそれを引き出すがためか。
 遠呂智の願いはそのままに引き継がれる。

 「暫しの間、我の力、お前に貸そう。」

 にだけ聞こえるような声音で、遠呂智はそう呟いた。
 その瞬間がらがらと崩れる遠呂智の世界。
 周りの景色が崩れていく。
 遠呂智の作った世界が壊れようとしているのだ。
 不安にかられる武将達に、は確信を持って微笑んだ。

 「大丈夫だよ!これから、みんなもとの世界へ帰るんだから。」



 遠呂智を倒し、微笑むに一同安堵とそして歓喜の声をあげはじめる。
 この世界から出られるのだと、元の時代へ返れるのだと。
 けれど、そんな中で4人だけは不満そうな顔を解かなかった。



 謙信が言う。

 「まだ信玄との勝負、用意してもらっておらぬ。」

 呂布が言う。

 「強い奴と戦うために貴様に着いてきてやったのに、貴様が遠呂智を倒してどうする。」

 司馬懿が言う。

 「まだ私の策を貴様はちゃんと実行していないだろう。いつもいつも勝手に行動しおって。これでは私の智謀を全世界に轟かす事など出来ぬわ。」

 政宗が、一歩に近づいた。
 お互い向き合う。
 けれど、政宗は一言も発さなかった。
 政宗はただを見て、けれどは微笑んだまま言う。



「またね!」



 白い光りが世界を覆う。
 政宗たちが光に包まれる。
 自分も光に包まれて、その眩しさに目を閉じた。










 強い光を感じなくなった頃、はそっと目を開けた。
 その目に広がっていたのはいつもの光景。
 毎日歩いていた通学路。
 自分の格好を見下ろせばいつも着ていた制服。
 左手には通学カバン。
 けれど右手には・・・・・・・

 「私の・・・・。」

 遠呂智の世界でが振り回していた、あの自分の手に馴染んだ長剣。
 その長剣が自分の右手に握られていた。
 柄には蛇の装飾。
 は剣をぎゅっと握り、空を見上げた。

 「さーて、まずは政宗の所だよね。」
 「ちょっと、!」

 呼ばれて振り返れば妲己がを追いかけてきていた。
 通学カバンを道に投げ捨て、空いた左手で妲己の右手を掴んだ。

 「今度はよろしくね、妲己ちゃん!」
 「ちょっとぉ!!」

 制止をかける妲己を他所に、そう言っては剣を空高くへと掲げた。
 世界は再び白い閃光に包まれる。
 これからまた、新たな冒険がを待っているのだ。
 そう、望むものはただひとつ。
 白い光りが再び二人を包む。
 覆われたその白い世界を、達は抜けた。





 「望むは、ただ一つ」





2008/10/10

 <作者様より>
 終わり、まし、たー!!素敵なお題をお借りして、そのお題に沿って話を考えていく。一つ一つのお話がどれも楽しく書けて、最後まで書ききることが出来て本当に良かったです!一つの夢はまた新たな夢へ。そんな思いで書かせていただきました。尽きることのない夢を見るために、ただハッピーエンドで終るだけじゃなく次へ次へと繋げていければとか思ったり思わなかったり。兎にも角にもとっても楽しかったです!参加させていただいた企画様、お読みいただいた皆様、ありがとうございましたww






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