遠呂智の作り出した世界は、夜になると赤と青の二つの月が夜空を照らし出していた。
 星々は数えるほどしか見えず、雲が多く空を覆っている。
 達義勇軍一行(と言ってもまだ全員で5人しかいない)は、いつもの蕎麦屋付きの宿で一休みしていた。
 はもう布団に入ってぐっすり眠っている。
 一日一升を許されている謙信は、一階の蕎麦屋で一人酒だ。
 呂布は宿の外で赤兎の手入れをしている。

 の隣の一室で蝋燭一本の薄暗い部屋の中、司馬懿と政宗は膝をつき合わせて座していた。
 卓上にはこの世界の地図や、各軍の情報が書かれた紙等が散乱している。

 「明日はいよいよ清盛を討つ、か。」
 「・・・・・・・あぁ。」
 「今回は呉と提携するんじゃったな。」
 「・・・・・・・そうだな。」
 「司馬懿?」
 「・・・・・・・あぁ。」

 司馬懿と政宗は無能な総大将のために、毎晩こうして次の戦や策、また残金の計算などを整理したり話し合ったりしていた。
 今晩も例外ではなく二人は明日の戦について話していたのだが、司馬懿の様子がどうにもおかしいと政宗は眉を寄せて司馬懿へと顔を上げた。
 司馬懿はといえば名前を呼ばれても生返事しか返さず、ただ一点を見つめているばかりだ。

 「魏軍と共に行軍して帰ってきてから、どこか変じゃぞ。曹操や曹丕に何か言われたのか?」
 「あ?・・・・・いや。」
 「?」

 歯切れの悪い司馬懿に政宗は余計首をかしげる。
 頭の回転は速い、非道な策も考え付く。
 けれど司馬懿は思ったことはすぐに口に出し、軍師にしては意外と単純な性格の持ち主である、と政宗は共に行動しそう司馬懿を見ていたのだが、今の司馬懿は司馬懿らしくない。

 「政宗、」
 「何じゃ。」

 何か決心したかのように司馬懿は顔を上げて政宗の目をじっと見た。
 政宗は姿勢を正して司馬懿と向き合う。

 「のことなのだが・・・・」
 「がどうかしたのか?」
 「いや、あいつは考えれば考えるほど不思議な奴だと思ってな。」
 「確かにな。どこから来たのか、何を考えているのか。戦を戦と考えていないようにも見えるところがあるのに、あいつの力はあの呂布でさえ敵わんだろう。しかし、逆に一般兵、いや、武器を持つ人間になら一発でやられてしまうほどの弱さも兼ね備えておる。」
 「以外は三国、戦国の時代から来た者達ばかりだというのには違う。自分勝手な行動が目立つが、どこかあいつはあいつなりの信念を持って行動しているようにも見える。何も見えていないようで、ずっと先を、未来を見ているような目をするときもある。」
 「けど、のことはにしかわからんじゃろうし、がここにいるのは遠呂智が呼んだからじゃ。と遠呂智に聞いてみればわかる話じゃろう。」
 「それが出来れば苦労はせん。」
 「確かに、遠呂智に話を聞くことは出来ぬが、になら聞けるではないか。」
 「どうもあいつは自分のことを話したがらんようだからな。」
 「それは・・・・あるな。」

 政宗と司馬懿はそれぞれ声を出さずに苦笑した。
 そんな様子を壁越しに、は布団に入りながら聞き耳を立てていた。
 最初はいつものように眠っていたが、ぼそぼそと話す声に目が覚めてしまい、そのまま政宗たちの話を聞いていたのだ。

 「別に話したくないわけじゃないけど・・・・・。」

 ぼそりと布団の中では呟いた。
 が何故この世界にいるのか、何故遠呂智は自分をこの世界へ呼んだのか、あるいは偶然この世界に来てしまっただけなのか。
 それはにもわからないことだった。
 これは政宗の言うとおり、遠呂智に聞くしかない。
 がどの時代、どの世界から来たか。
 は三国時代の武将達、戦国時代の武将達、彼らの行く末を知っている。
 司馬懿が未来を見ていると感じたのは、が確かに彼らの未来を知っているからそう感じたのかもしれない。
 けれど、はそれを言うつもりはなかった。
 三国無双や戦国無双といったゲームの中の彼ら、学校で教科書の中で出てきた彼ら、文庫本や他のゲームに出てくる彼ら。
 とくに無双シリーズでは、史実と違った未来が訪れる場合がある。
 この世界と、無双の世界、そして自分が生きてきた世界を他人に理解できるように説明することなど、は出来ないと判断している。
 それ故に自分のこと、自分が生きてきた世界のことなどを話したくない、ではなく話せない、のである。

 「ま、敵を斬りつけたら一発で倒せるとか、斬りつけられたらやられるとか。これはもう一般常識だよねぇ。そんな何回も斬りつけられて平気で立ってられるか!っての。」

 自己完結しては再び眠りへと意識を手放した。
 明日はいよいよ清盛との対決なのだ。
 早めの睡眠は体力温存のために、そしてお肌の健康のために!である。







 一方、呉軍を待ち構える清盛を除いた遠呂智軍では、卑弥呼の力で復活を遂げた遠呂智と妲己が城壁に並び立ち、この世界を見下ろしていた。

 「明日には清盛が呉軍、そして率いる義勇軍との合戦が始まりますわ。」
 「そうか。」
 「遠呂智様、遠呂智様はを・・・・・」
 「、か・・・・。」

 一陣の風が二人を襲った。
 けれど砂埃さえものともせず、遠呂智も妲己も真っ直ぐにただ城壁の上に立っていた。
 遠呂智は砂塵の中に、かつて見た夢の世界を妲己に語って聞かせた。

 それは少女の夢だった。
 少女は夢の中で、戦に出る。
 身軽そうな軽装で長剣を振り回す。
 時には三国の武将と共に、時には戦国の武将と共に。
 少女はとても強かった。
 その瞳は夢の中であるというのに、輝いて見えた。
 その少女を、遠呂智は自分の世界へと引きずり込んだ。
 少女の夢から自分の夢へと。
 少女の夢と、遠呂智の夢は重なった。

 「それが、・・・・なのですね。」

 妲己の問いに、遠呂智は答えなかった。
 ただ砂塵を見下ろしていた。
 やがて顔を上げて身を翻した。

 「人間たちとの総合戦も近い。我が軍の者達に用意をさせておけ。」
 「承知いたしました。」

 いつもよりしおらしく妲己はそう返事をして頭を下げた。
 遠呂智はそのままその場を去った。

 二つの月はやがて暮れ、照りつける太陽が空に昇る。
 清盛と、呉軍、そして達の戦が始まった。







 場所は山崎。
 清盛達は大筒を構え、砲撃を開始してくる。
 はまた呂布、謙信とスリーマンセルを組み、清盛目指してただ一直線へ進む。
 敵を薙ぎ倒し、斬り倒し、歯向かう敵を片っ端から斬っていく。
 そんな様子を見て義経が感嘆の声をあげた。
 それと同時に、へ疑問を抱く。
 呂布をも凌ぐその強さ。
 見てくれはただの少女であるのに、その力は群を抜いていた。

 呉軍の後押しも効き、達は一気に清盛を追い詰める。
 鳴り響いていた砲撃の音は、いつの間にか消えていた。
 周瑜達が北東砦を落とし、砲撃を止めたのだ。

 呂布がの右サイドを守り、蹴散らす。
 謙信がの左サイドを守り、薙ぎ倒す。
 はただ真っ直ぐに清盛へと飛び出した。
 清盛が武器を構える。
 は天高く長剣を振り上げ、力の限りその長剣を振り下ろした。

 「やっと・・・・遠呂智様の望まれる強さを、手に入れたか・・・・・・。」

 清盛はそう言い残し、地に倒れながらその姿を消した。
 どうしてこの世界へ呼ばれたのか、どうして自分がここにいるのか、はもうこれが夢じゃないことを自覚しつつあった。
 の夢と、遠呂智の夢が混ざり合って出来た世界。
 それは夢か現か。

 清盛が倒れた今、次はいよいよ遠呂智との真っ向勝負だ。

 「っさーて、さくっと倒しに行っちゃおうか!」

 振り返り、はにかんだ笑顔をは見せた。





 「はにかんだ笑顔」





2008/10/07

 <作者様より>
 そんなワケでした(何が)。もっと呉軍とヒロインたちを絡ませようと思ったのですが、なんか色んな都合上(だからどんな都合)端折らせていただきました;なので清盛との対戦も端折る端折る。清盛のおっちゃんごめんね!






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