世界を覆う黒雲
そこから降り続く大雨
木々を揺らし、連れて行きそうなくらいの強風
それは全てを飲み込む台風
私はそこからやってきた
全ては 嵐 から始まる
穏やかな気候の中
草の上に寝ころんで空を見上げて思い切り伸びをする
まぶしいはずの太陽も今は木の陰できらきら揺れる小さな光に過ぎない
初夏を感じさせる気温も、近くを流れる川のおかげで暑さを感じさせない
大自然を満喫しながら毎日を平和に過ごしている
呉国にて
私、はこの国の人間ではない
というか、この世界の人間ではない
日本という国に生まれ、平和な世に慣れ親しんだ自分がなぜここにいるかというと
きっかけは友人に借りた1本のゲーム
三国無双シリーズである
台風のある日、家に籠もらざるを得ない状況だったので
以前友人から「絶対にハマるから!」と持たされた1本のゲームを
本体にセットしてスタートした瞬間に、部屋のすぐ近くに、落雷が起きた
視界はあっという間に遮られ、異様な浮遊感にうっすらと目を開けると
風で飛ばされていた
それはもう盛大に、まるで干したタオルが風に飛んでいくかのように
あっけに取られている間にぐんぐんとスピードを上げていく
軽いパニックになりながらもがいていたら
堅いものが背中に当たった
思わず「ぐえっ」と声が漏れたが、同じような声も背中から聞こえ
恐る恐る振り返ると、そこには男がいた
崖に立つ男の腹に自分が引っかかっていた(そして軽く逆エビぞりになった)
とりあえず助けてもらった(引っかかっただけだが)お礼を言い、『それにしてもすごい風ですねー』なんて間抜けな世間話をしながら頭を整理する
相手も「本当だぜ!ちょっと心配で外出てみたらよー」なんて相づちを打ってくれているが、頭の中はそれどころではなく、ぐっちゃんぐっちゃんでよくわからなくなってきた
部屋の中にいたはずなのに、何故自分はここにいるのだろう
しかも、目の前にいる人…
さっきまで持っていたゲームの登場人物に似ている
(たしか、孫策…だったっけ)
とぼんやりした頭でなんとか考えていくうちに、冷たい雨が降ってきた
「まじぃな。おい!帰るぞ」
と目の前にいた孫策?さん(まだわかんないから)にむりやり馬に乗せられ連れて来られたのは尋常じゃない大きさの建物
え?え?とか混乱しているうちに孫策?さんの命令で女の人に囲まれてしまった
(同性だけど悪い気がしなかったのは、きっとみんな綺麗な人だったからだと思う)
そのままお風呂に入れられて暖かい部屋でお茶を飲んでいたら勢いよくドアが開いて孫策?さん(しつこい)ともう一人が部屋に入ってきた
(うひゃ、超絶美形…!!!)
一緒に入ってきた美形さんに目を奪われている間に二人はこちらを見ながら何か口論していたようで
「孫策、私は様子を見に行くのだって反対したのだが、人を連れてくるなんて聞いていない」
「周瑜、カリカリすんなって!別に大丈夫だから」
「何が大丈夫なものか!君はいつもそうだ!後先考えずにいろいろとやらかしてゴフッ…!」
「あー、だからあんまり興奮すんなって!吐血ばっかりしてたら貧血になるぞ」
「誰のせいだと思っているんだ!」
「と、とにかく!怪しいモンじゃねぇって!多分な!!」
…
一瞬の静寂の後にはさらなる吐血が待っていたけれど
(もしかして、あまり歓迎されていないってか?!)
顔から血の気が引いていくのを感じながら二人の視線を感じる
一つは興味津々で、一つは訝しむような視線で
うぅ…やりずらい…
大体さ、あたしはあまり目立つことは嫌いなのにさ、なんでこんな二人にじろじろ見られなきゃいけないわけ?!
あたしは見られるよりも見たい方だ!目の前にかっこいい人が2人もいるんだからね!!!
でも、好みとはちょっと違うんだよねー
あたしの好みはツンデレ系でタレ目の…
「周瑜さーん、大殿が呼んでたよー」
い た !!!!
いたいたいたいたいた!!!!
まさにこんな感じだよ!!!!!!
「あぁ、凌統」
りょうとうさん…
「あれ?どうしたんですかその子」
ぎゃっ!あたしを見た!!!!
「俺が拾ってきたんだぜ」
「拾ったって、犬や猫じゃないんだから」
「そうだぞ孫策!どうする気なんだ」
「どうするったって…」
『ハイ!提案があります!!!あたしをそちらの凌統さんの付き人にしてください』
… ハ ァ ? !
「付き人って…」
「…(絶句)」
あれ?おかしなこと言ったかしら?
「わはははは!おもしれぇじゃん」
孫策さんはおなか抱えて笑い始めちゃった…
『な、なにか変なこと言いました?』
「付き人とは、何をする人の事をさしているのだ?」
周瑜さんの眉間の皺を見ながら
『決まってるじゃないですか!いつでもそばにいて御主人様の欲しいものを用意したりとか、予定を管理したりとか(たぶん)』
「…つまりは女官のような仕事ということだな」
『女官さんの仕事がわからないのでなんとも言えないのですが、そんな感じです』
「ふむ」
「ちょ、ちょっと周瑜さん!俺はこんなちんちくりんの面倒見きれませんから!」
「そういうな凌統。こちらとしても素性がはっきりしない間はどこか信用のおける者に預けようと思っていたところだ」
「そうだぜ凌統!こいつ面白いからきっと飽きないぜ」
「そういう問題じゃないですって!」
なんか揉めてるなぁ…。あたしとしては早く凌統様(主人なので様付き←まだ決まってない)と二人っきりにしてほしいんだけどなぁ
そのまましばらく口論みたいなのが続いて、最終的には権力に屈した凌統様があたしを引き取ることとなった
あたしはその日は城の客間にて過ごして、翌日に凌統様の家に行くことになった
翌日は昨日の天候なんて嘘みたいな快晴で
『これぞ台風一過!』
とりあえずは夕方まで時間があるから、昨日孫策さんに引っかかった丘まで来てみた
小高いそこは、城下町と真っ青な空が一望できる場所ですぐにあたしのお気に入りの場所になった
とりあえず一人になって、色々考えないといけない
会う人はみんなゲームのキャラクターばかり
ということは自分は今、友人に借りたゲームの世界にいるのだろう
こんなこと、あるのかな?
でも、実際自分はそんな場所にいる
ゲームの説明書は一通り目を通したから、登場人物の名前はともかく顔は朧気に覚えている
(さて、どうしようかな…)
どうしようもなにも、自分にできることなんてこの世界じゃたかが知れている
いや、もしかしたら何もできないかもしれない
勉強ができるわけでも、運動ができるわけでもない
本当にごくごく普通に生きてきたのだから
…一つをのぞいては、だけど
(にしても、なんか平和だなぁ…。戦争が起きている時代じゃないみたい)
一つあくびを漏らして、目を閉じた
さらさらと木の葉が揺れる音
ふかふかの草のベッドはきもちがよくて
意識はそのまま深い淵へ落ちていった
「…ったく」
日もだいぶ傾いて空が赤から藍に変わろうとしている時
凌統はを見下ろしてため息をつく
すやすやとこちらが聞いていて気持ちいいくらいの寝息を立てている不思議な女
「…仕事終わりの主人を迎えるのが普通でしょうが」
町を見下ろすようにどかりと横に腰を下ろしても起きる気配も無く
(…なんだってんだよ)
いきなり知らない女が俺の家に来ることになった
会って最初の会話がアレだっただけに、第一印象は「変」の一言
でも、殿が言っていたように退屈はしないかもしれない
ちらりと隣を見やると、相変わらずの脳天気そうな寝顔が見えて
でも、それがなんだか羨ましくもある
今のこの時代、こんなに穏やかな顔は子どもですらしないと思う
…自分はこんな顔したことがあるのだろうか
小さい頃から戦は身近な存在だった。父親がいつもいる場所だった
憧れていた。自分もそこに行きたいと望んで、努力をしていた
戦場に連れて行ってもらえるようになってからはあっという間だった
そんな自分に、こんな表情をしたことがあっただろうか…
(…これから、できるようになるのかも、ね)
なんとなく、そう思った
とりあえずたたき起こして、早く家に帰ろう
自分の中の穏やかな気持ちが、なんだか気持ち悪い
決意して、寝息の方に顔を向ければ
(…!)
崩れすぎた笑顔があって
不覚にも、動揺してしまった
(アンタどんな夢みてんだよ…!)
しばらく後に、は文字どおりたたき起こされた
(ちなみに見てた夢はプリンの海で泳いでいる夢だった)
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