「りょ、呂布だー!!」
「呂布が攻めてきたぞー!!!」
卑弥呼を追いかけながら軍を移動させていた魏軍達が騒がしくなる。
伝令が総大将である曹操へ呂布が攻めてきたと伝えたからだ。
遠呂智復活を止めるために、魏軍はどうしても卑弥呼を追わなければならない。
呂布に構っている時間はないのだ。
それは総大将である曹操だけではなく、魏軍全兵士が理解している。
「呂布に構うな!」
「追いつかれる前に卑弥呼を捕まえるぞ!!」
魏軍はそれぞれ声を掛け合って行軍のスピードを上げる。
軍の真ん中らへんに曹操たちは位置していた。
周りに合わせて彼らもスピードを上げる。
「孟徳、いいのか。もし追いつかれたら・・・・・・。」
「放っておけ。」
夏侯惇がやや心配そうに曹操を見やったが、曹操は焦った様子も見せず平然と澄ました顔で軽くあしらった。
周りは「呂布に追いつかれるな!」「早く進めー!!」「卑弥呼を捕まえるんだ!!」と俄然卑弥呼を捕まえることに意欲を燃やしていく。
そんな魏軍に達も追いつこうと必死に追いかけるわけで。
「っちょ!魏軍がどんどんスピード上げてるよ!?」
「よほど遠呂智復活を恐れているのか。」
「卑弥呼を捕まえることに必死なのじゃな。」
「しかし、卑弥呼の先には清盛も待ち伏せし故、早々に魏軍と合流せねばなるまい。」
「そうだね!早く魏軍と合流しなきゃ!」
双方、行軍のスピードは早くなる一方である。
けれど一番焦っているのは先頭を走る卑弥呼だろう。
何か急に追ってくる軍の速さが増してきてる!!?とさぞかし驚いていることだろう。
「・・・・・・・・面倒だ。」
「え、呂布?」
「おい待っ・・・・・!!!」
政宗の制止も途中までしかの耳には届かなかった。
呂布の赤兎には呂布と共に乗っていた。
一気に上がるスピードには首をがっくんと折られながらも必死に赤兎の首にしがみつく。
気にせず呂布は赤兎のスピードを増していく。
蟻くらいの大きさにしか見えなかった魏軍がどんどん大きくなっていく。
距離は縮まっていくが・・・・・・、
「って、呂布ー!!抜かしてる!!魏軍抜かしてる!!というか政宗たちを置いてきているー!!!」
「遅かったな、呂布。」
「虫けら共が。」
「え・・・・。」
魏軍の丁度真ん中の位置まで走ってきた呂布達の隣には、曹操や夏侯惇達が並んで達を見ていた。
武器を、構えて。
「おいおい、またなの?また勘違いされちゃってんの?もうヤだよ。首が痛いんだよ。戦えないよ私。」
「武器を下ろせ、元譲。他の者達もじゃ。」
焦るだが、曹操の一言で構えられていた武器は下ろされた。
不審に首をかしげる呂布とに、曹操はにやりと楽しそうに笑った。
元より曹操は以前から達が義勇軍として動いていることは知っていたのだ。
遠呂智軍にいた頃より聞くの力、蜀と共に戦った義勇軍のその活躍等、それらの情報を曹操は各視察より聞いていたのだった。
義勇軍が遠呂智軍と対峙している事も然り。
それもあって呂布が魏軍を追ってきている理由もおおよそは予想がついていた。
「じゃぁ何で俺が聞いたとき放っておけなんて答えたんだ、孟徳。」
「その方が早く進むじゃろうが。」
「お前なぁ・・・・。」
呂布に追いかけられた魏軍兵士達は焦って卑弥呼を追うスピードを上げる。
それを分かって曹操はあえて周りに呂布は攻めてきているのではないということを黙っていたのだ。
大変性質の悪いやり方であるが、曹操のそういう性格は皆理解しているので、誰も本気で腹を立てている者もいないようだ。
曹操も先を思っての行動なので、それを思えば誰も文句を言えないのである。
そういうところも曹操の持つ一つの策と言えばそうかもしれない。
「このまま追い続けていても拉致はあかぬ。清盛の奴も卑弥呼を捕まえに来ておるからな。」
「じゃぁ、どうするんですか?」
「卑弥呼捕縛計画、特別編成じゃ!」
の問いに曹操はまた楽しそうににやりと笑い、隣で夏侯惇がため息をついた。
卑弥呼捕縛隊編成その一。
、呂布、曹丕。
スピード、パワー、テクニックがバランス良く編成され、主に卑弥呼を捕らえる役割を担う。
卑弥呼捕縛隊編成その二。
政宗、謙信、典韋。
スピード、パワー、テクニックとこちらもバランスよく編成され、達とは反対に後衛を務め卑弥呼を側面から追い詰める役割を担う。
卑弥呼捕縛隊編成その三。
司馬懿、曹操、夏侯惇。
スピード、スピード、スピードと恐ろしくバランス悪く偏った編成のこのチームは、主に上記二つのチームに指示を出す司令塔の役割を担う。
ぶっちゃけ指示を出すだけなので前線に出ることはないということで、バランス云々は完全無視の方向だ。
「異議あり!!」
「、頼むからこれ以上疲れるようなことを発言するな。」
「構わん。申してみよ、。」
やっと呂布たちに追いついた司馬懿達。
卑弥呼捕縛計画特別編成の卑弥呼捕縛隊のチーム編成を聞いたばかりで頭痛が止まない司馬懿にここぞとばかりにが手を挙げ異議を唱える。
これ以上頭痛をひどくしてくれるなと司馬懿はを睨むが、そんな様子の司馬懿を楽しむかのように曹操はの発言を許した。
さらに司馬懿が頭を抱えたのは言うまでもない。
「ぶっちゃけ私も楽したいので司令塔メンバーに入りたいです!私もスピードなのでなんの問題もないと思います!」
「ぶっちゃけすぎだ、馬鹿めがぁー!!!」
「却下じゃ!、お主には一撃必殺の技があるじゃろう。それ故に前線で卑弥呼を一撃で仕留めるにはお主の力が必要になるのじゃ。」
「くっそぅ、楽できないか・・・。」
「もういいからさっさと行かぬか馬鹿めが。」
司馬懿は片手で額を押さえながら、もう片方の手でしっしっ、と追い払うようにに手を振った。
はぶーぶー言いながらも呂布と共にその場を去る。
同じチームである曹丕もそれに続こうとしたが、何を思ったのか戻ってきた。
「久しいな、司馬懿よ。」
「・・・・曹丕様、早く行かれなければ置いていかれますよ。」
「随分と楽しそうではないか。」
「っな!!そのようなことは・・・」
曹丕は司馬懿の返事を最後まで聞かず達を追って去っていった。
その背中を見送りながら、司馬懿は呟くように言い返す。
「馬鹿めが。魏にいた頃より問題児が多いせいで、走り回っているだけだ。」
「ほーぅ、魏の問題児とは誰かのう。」
「いっ!!いえあの、別に、それは・・・・・」
「曹操、あんまり司馬懿を苛めてやるな。」
胃を痛める司馬懿を横目に政宗たちも達とは別方向へと馬を進めていく。
もちろん政宗、謙信、典韋の3人は馬ぐらい乗りこなせる。
けれどは生まれてこの方馬になど乗ったことはなく、今でも誰かの馬に一緒に乗せてもらっているのが現状だ。
それにと同じチームには呂布がいる。
呂布が乗る馬は三国の世界で一番早い赤兎だ。
赤兎についていける馬はいない。
よって・・・・・
「降りろ、貴様ら。赤兎の本来の速さが出んだろうが!」
「いやだって、私一人で馬乗れないし。」
「赤兎より速い馬を連れてくるならそっちに乗ってやらんこともない。」
赤兎に、呂布、曹丕の3人乗りという状態だ。
一番前にを乗せ赤兎の首にしがみつかせ、真ん中に乗った呂布が手綱を持ち、一番後ろに曹丕が座り呂布にしがみついている。
端から見れば仲の良い3人兄妹くらいには見られるかもしれない。
若干、赤兎が辛そうな表情をして見える。
戦のために鎧やら具足やら兜やらを被った武将達3人が背中に乗っているのである。
それでも本来のスピードで走ろうとする赤兎は、よほどプライドが高いのだろう。
馬をよく知らないものから見れば、赤兎は平気な顔をして見えるに違いない。
それは赤兎がそう務めているからそう見えるのだ。
どれほど辛くてもそれを表情に出さない、投げ出さない。
呂布はそんな赤兎に柔らかく目を細め、赤兎を止めることなく卑弥呼を追う。
卑弥呼は馬には乗っていない。
徒歩で逃げているので、馬に乗って追いかけている達が追いつくのも時間の問題なのだが、卑弥呼の周りには遠呂智の兵たちが卑弥呼を守っているためそう簡単には追いつけそうもない。
しかも清盛が反対側から卑弥呼を捕らえにきている。
手はずでは、少し遠回りをして卑弥呼の逃げ道を先回りし、卑弥呼の足止めをするため政宗たちが馬を飛ばしているはずだ。
達はこのまま卑弥呼を追いかけていれば、その内追いつくことが出来るだろう。
真っ直ぐに赤兎を走らせる。
けれど進めば進むほど遠呂智の兵達が増え、進むことが困難になってきた。
「どけい雑魚共ぉ!!!!」
「呂布!呂布は前方の敵に集中して!私は右を、曹丕さんは左を!!」
「ふん。」
赤兎を走らせたまま、3人はそれぞれ武器を構えた。
呂布は方天画戟を空へ掲げ、赤兎の前を遮る敵を撫で斬りしていく。
は右から襲ってくる敵を切り裂き、曹丕は左から敵を吹き飛ばしていく。
スピードはそのまま、遮る敵もものともせず、3人と赤兎は真っ直ぐに駆けて行く。
しばらくそうして走ると、卑弥呼らしき人影が見えてくる。
真っ直ぐ走っていたはずの卑弥呼は、何かを警戒しながら逃げ道を変えつつ走っているようだ。
「政宗たちが卑弥呼を誘導してくれたのね!」
「行くぞ、赤兎。」
「子ども一人、捕らえることは容易いだろう。」
達はさらに卑弥呼へと真っ直ぐ赤兎を走らせた。
卑弥呼を少し追い越し、目の前で3人赤兎を降りる。
「卑弥呼、貴様を遠呂智復活阻止のために捕らえさせてもらう。」
「嫌や!!だって、妲己ちゃんと約束したんやもん!捕まったらあかんって言うてたもん!」
「ずべこべ言わずにかかってこい。」
「ちょっと、呂布!卑弥呼と戦ってどうすんの!?」
「うちは、あんたらなんかに捕まらへん!どいてや!!」
卑弥呼の愛用の武器である日神で攻撃をしかけられ、は後ろへ飛んでそれを避けた。
呂布がいよいよと武器を構える。
その隣で曹丕も武器を構えだした。
だけはただそこに立ち、卑弥呼と向き合う。
その目に映るものは何なのだろうか、とまるで探るように。
「卑弥呼にとって妲己って、何?」
「妲己ちゃんはうちの友達や!妲己ちゃんを苛めるやつはうちが許さへんで!!」
「友達・・・・・。」
は呂布と曹丕の間に割って入って武器を収める様に両手で促す。
呂布も曹丕もに視線を落とした。
「ならそのお友達に伝えておいてよ。さっさと復活させちゃってよね・・・・って。」
「おい、。」
「貴様、どういうつもりだ。」
卑弥呼も訝しげにを見上げるが、一向に武器を構えようとせず、卑弥呼を捕まえるそぶりも見せないに、卑弥呼は少しだけ警戒を解きその場を走り去った。
そこへ卑弥呼を誘導させていた政宗達も集まってくる。
卑弥呼を逃がしたへ、それぞれが視線を向ける。
「馬鹿めが。卑弥呼を逃がしたら、遠呂智が復活してしまうのじゃぞ、。」
「だからだよ。」
「何?」
はやっと剣を構えて周りを振り返った。
「今卑弥呼を捉えても、清盛や妲己、遠呂智を復活させようと企む人達がきっといつか遠呂智を復活させる。なら、復活した遠呂智を直接叩けば全部済む話じゃない?」
「またお前は・・・・・。」
「ふん、だがその方が面白い。」
「闘争は、愉悦。」
「えぇっとぉ、とりあえずこれどうなったんスか、結局。若殿・・・・?」
「父に報告だ。この女の言をそのまま伝えろ。」
の突発な思いつきに、怒りを通り越して呆れる政宗。
楽しそうな呂布、謙信。
意味が分かっていない典韋。
成り行きを見守る曹丕。
妲己の元へ走り去った卑弥呼。
卑弥呼は妲己に利用されているかもしれない。
けれど、卑弥呼はそんな風に感じてはいない。
卑弥呼の目には、友達の妲己が映っていた。
そうは感じたのだった。
この世界にはいない友達を思い出す。
もしかしたら、今まで仲が良かった友達は自分は仲が良いと思っていても、相手はそうは思っていなかったかもしれない。
ただ利用されていただけかもしれない。
それでも、自分だってきっと友達のために何かしたいと、信じたいと思う時だってあった。
現実に救われた事だって沢山あったし、楽しい思い出もたくさんある。
卑弥呼のそんな姿を、は自分と重ねて見たのかもしれない。
そう、あの目に映っていたのは・・・・自分だった。
典韋が伝令を使って曹操たち軍師ズに現事態を伝えた。
「馬鹿めが・・・・」と呆れたのはもちろん司馬懿だ。
曹操は、頭を振りかぶって笑った。
彼の機嫌の良い時に見せる癖だ。
「面白い女子よ。・・・・・・そうじゃな、遠呂智を直接叩きのめすその際は、儂ら魏も力を貸そうぞ。」
「孟徳。」
「殿・・・・・・。」
曹操はそう言い残し、夏侯惇と共にその場を去った。
残された司馬懿はというと、呆れることもせずただ曹操たちが去ったその道をただ見つめていた。
「あの魏も味方につけるか・・・・。、本当にあなどれん奴だ。あいつの頭はどうなっている。」
一度視線を地面へと落とし、今度は空へと顔を上げて司馬懿はふと考えた。
「あいつの目には一体何が映っているのだろうな。」
乱世に生まれてきた自分たちとは違うものを見てきたであろう。
政宗たち戦国の時代とは違う場所で生きてきたであろう。
この世界で何を感じ、何を見ているのか。
何故ここにいるのか。
三国にも戦国にも属さない時代、世界から来たは一体何者なのだと、司馬懿はそこで初めて疑問を抱いた自分に、さらに疑問を抱いたのだった。
何故こんなにもあいつを受け入れていたのか。
不可思議な存在のはずのを、自分たちは今まであまり疑問を抱いてこなかった。
という存在を自分たちはそのまま受け入れてきていたのだ。
それは乱世や戦国といった、人をあまり信じることの出来ない時代に生きてきた自分たちには本当に不思議なことだ。
「、お前は一体どこから来たのだ?」
けれど司馬懿の口にした疑問は、風に乗って空へとかき消されてしまった。
「その目に映るもの」
2008/09/29
<作者様より>
後編にきてやっとヒロイン事情突入の兆し。ギャグ中心ですが、せっかくのトリップ設定なのでその辺の背景も織り交ぜながらラストへ向かっていきたいと思います!今話は呂布がメインかと思いきや司馬懿がラストを飾ってしまいました;いつも出張るキャラが偏ってしまうので他キャラも!と思うのですが言う事聞いてくれないですこいつら!
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