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「私、月見そば!」
「儂は天ぷらうどん。」
「酒。」
「謙信公、酒禁止!」
「酒代、誰が出すと思っておるのだ!!」
「・・・・にしんそば。」
うっかり政宗も謙信に敬語を忘れる今日この頃、一行は春日山城を出てから以前夢想と政宗、二人が泊まった宿に来ていた。
本拠地もない、兵もない、金は少ない。
そういうわけで、暫く宿暮らし決定なのである。
残り少ないお金(政宗の所持金)で節約しながら仲間探しに明け暮れる日々。
あとお金がないのでどうやってお金を稼ぐか3人は腹ごしらえをしながら話し合おうということになったのだが、この3人である。
そうそう話がスムーズに進むわけもない。
「大体なんで貴様らは金を持っておらんのだ!」
「や、だって私この世界に来てからお金なんてさわったことないよ?」
「儂は生まれてこの方さわったことなどない。」
「いやそれおかしいでしょ!」「いやそれはおかしいだろ!」
謙信の答えに夢想と政宗が同時につっこむ。
夢想達の命綱である金は政宗しか持っていない。
よって、政宗の財布が空になれば宿にも止まれず、食事だってままならない。
衣食住、生きることに必要な三原則が失われるのだ。
「店主、酒を」
「だから酒禁止だってば!謙信さん、飲み始めたら止まらないんだから!」
「本拠地を手に入れ、金が入るまでは酒類禁止じゃ!大体昼間から酒を飲む奴があるか!」
「・・・・・・。」
きっと謙信の心の中では、なんて奴らに付いて来てしまったのだと後悔の嵐が渦巻いていることだろう。
けれどそれに対し安心しろとは言わないが、政宗も同じ心境なのである。
二人を巻き込み、仲間集め珍道中などおっ始めてしまった当の本人夢想は、二人よりかはいたって冷静に(そりゃ本人だもんな)これからのことについて考えている。
衣食住、なければかなり困るのだ。
女の子にとっては、いろいろな意味でこれ一大事なのである。
そう、当の目的である遠呂智討伐なんて誰が覚えていようか。
「馬鹿めが。大体お前が考えなしにぽんぽんぽんぽん行動を起こすからこんなことに」
「ゴメン政宗、今なんて?」
「だからお前が考えなしに、」
「その前。」
「・・・馬鹿めが?」
「月見そば、天ぷらうどん、にしんそば、お待たせしましたー。」
「それだー!!」
夢想が指差す方向には、店員が運んできた月見そばの椀。
一体なにに対して「それ」なのか、政宗はがっくりと肩を落とした。
そんな政宗を他所に、夢想と謙信は運ばれてきたそばをいそいそと自分の前に置き、割り箸を割って食べ始めた。
ずるずるとそばを啜りながら夢想が口を開く。
「そえそえ、そろばはめはってやつがれ?」
「食べるのか喋るのかどっちかにしろ。」
「・・・・・。」
「食べるのか!!」
ものすごい話の途中だったが、一行まずは昼食を摂る事にした。
最もそうでもしないと話が進みそうになかったからであるが、夢想も謙信もそばを前にまず話から等という概念は持ち合わせていないらしかった。
食べ物を口に入れながら喋ってはいけません。
これ常識。
3人は黙ってそば、ないしうどんを啜った。
実に静かな昼食であった。
「それでね、さっきの話なんだけど。私たちに足りないのは軍師だと思うの。」
「軍神ならおるではないか。」
「戦のね。」
「戦に強い者だけでは遠呂智に勝てぬのか。」
謙信が訝しげにそう夢想に問うた。
政宗も夢想を見る。
「戦はいいのよ。このままじゃ私たちの生活が危ない。つまり、政よ!」
「・・・・政と儂らの生活と何の関係があるんじゃ?」
「いーい、政宗。民の生活を統治するのも軍師の仕事。つまり政!」
「それ軍師の仕事ではないのではないか?」
「だが、一理ある。」
「あるか!!貴様らさっきから適当にものを申すな!」
政宗がついに痺れを切らして机を叩く。
そのせいでうどんの汁が器からびちゃっと零れた。
「適当ではないぞ。」
「そーよ、死活問題よ。」
「・・・・はぁ、もうよい。お前らがそういう奴だってことがよくわかったわ。で、それでどうするのじゃ。」
「うんでね、さっきの政宗の『馬鹿めが』で思い出したんだけど、ピッタリの人がいたんだよー。」
「・・・・・・誰じゃ?」
「で、何で儂らは遠呂智軍の元へ戻ってきておるのじゃ。」
「いーからいーから。」
あれから昼食後、夢想と政宗は遠呂智軍の城門前に来ていた。
ちなみに謙信は別行動である。
夢想達は軍師を、謙信は放浪中の猛将に心当たりがあるとかで別々に仲間集めに取り掛かることにしたのだ。
上手くいけば二人も仲間が手に入る。
落ち合う場所は、さきの宿である。
もうあの宿が本拠地でいいんじゃないだろうか、そんな夢想の提案はもちろん却下された。
まさか裏切った軍の元へ戻るなど思ってもいなかった政宗は必死に夢想を説得しようとするが、何か思いついたらしい夢想が退くはずもなく二人がしばらく押し問答していると門が開いた。
政宗が身構えると、そこに立っていたのは・・・・
「慶次・・・・・。」
花の慶次、奇矯な振る舞いを好むカブキ者として知られた前田慶次が門の向こうに立っていた。
慶次の腕は政宗もよく知っている。
厄介な相手が出てきたと、政宗はきつく慶次を睨んだ。
「あ、慶次!よっ!」
「おぅ、夢想どうした?」
「司馬懿に会いに来たんだけど、司馬懿いるー?」
「おぅ、いるぜ!呼んできてやるからちょっと待ってなぁ!」
「ありがとー!」
慶次はそう言うや否や、門の奥へと消えていった。
そんな慶次に夢想が手を振る。
「って、待て待て待て!お前ら会話がおかしいじゃろ!」
「どこが?」
「あのな、儂らは遠呂智軍を裏切ったんじゃぞ?」
「あー、大丈夫大丈夫。慶次はちくったりしないから。」
「だからそれがおかしいと言うておるんじゃ!!」
けれど政宗の常識的発言はどこ吹く風。
慶次はきっちり司馬懿を呼んできてくれた。
「何故貴様らがこんなところにおるのだ。」
「やっとまともな人物が出てきおったか。」
政宗がほっと息をつくも、すぐにいつでも戦闘体勢に入れるよう身構える。
そんな政宗に司馬懿は一瞥した。
「今はまだ貴様らを捉える時ではない。」
「どういうことじゃ?」
「私とて知らぬわ!それより、この私に何用だ。」
「うん、司馬懿に仲間になってもらおうと思って。」
「・・・・・・・は?」
夢想の言葉に二人が固まったのは言うまでもない。
ここは遠呂智の本拠地で、司馬懿は今遠呂智軍の人間である。
そんな司馬懿をしかも敵本拠地で仲間に引き込もうというのだ。
常識人なら固まって当然である。
「寝言は寝て言え。」
「遠呂智なんかにその智謀を貸して、司馬懿に何か利があるのかな。本当は司馬懿、やりたいことがあるんじゃないの?」
「何だと?」
「本当は、自分の智謀を試したい。自分の力で天下を勝ち取りたい。そう思ってるんじゃないの?」
「貴様に・・・・私の何がわかる。」
「ねぇじゃぁ、賭けない?」
「賭け・・・・だと?」
司馬懿の目つきが少し変わる。
元々挑発に弱い男だ。
夢想の安い挑発に乗るまではいかないが、夢想の話を聞こうという気にはなってきたらしい。
「私が司馬懿を笑わせることが出来たら、司馬懿は私の仲間になる。」
「貴様の仲間になって私に何か利があるのか。」
「この世界を創った遠呂智を倒す策を練られる。遠呂智を倒したとあれば、それは確実に司馬懿の智謀を世界に見せつけることになる。」
「・・・・・面白い、やってみよ。」
「おい、夢想。大丈夫なのか?」
政宗が心配そうに夢想を見る。
あの司馬懿である。
笑いとはとても縁がなさそうな男と言っても過言ではないくらいだ。
嫌みったらしい笑いならともかく。
けれど、そんな政宗に夢想はニッコリ微笑んだ。
司馬懿が夢想を見下ろす。
政宗が心配そうに夢想を見る。
夢想は地面に転がっている枝を適当に一本掴んで司馬懿の前に立った。
「曹操の息子、曹丕のチャージシュートのモノマネ!」
「・・・は?」
「な・・・に?」
「ひざまづけ!」
一本の枝をボキッ!と二本に折り、ざくっと地面に突き刺す。
その後一本に戻そうとくっつけるが、折った枝が一本に戻るはずもない。
「も、戻らない!」
「っぶ!!」
「何じゃ!?今のは笑うところなのか!?笑うところだったのか!?」
晴れて司馬懿は夢想の仲間となったのであった。
司馬懿はあんなモノマネで笑ってしまった自分が許せないと散々喚いていたが、約束は約束である。
二人に引きずられるように宿へと連れて行かれた。
宿には既に謙信も帰還し、部屋を取っていてくれていた。
案の定、宿にある蕎麦屋で謙信は酒をぐいっとやっていた。
「その金は、誰が支払うのじゃ。」
「馳走になる。」
「馳走になる、ではないわぁー!!!」
「まぁまぁ、政宗。謙信さん、謙信さんが言ってた猛将は仲間になってくれました?」
「あぁ、そこに座っておる。」
謙信が指差す方へ3人は視線を向ける。
そこには一つの大きな影があった。
「ふん、貴様の軍に入れば強い者と戦りあえると聞いた。仲間になってやらんこともない。」
頭から二本の触覚、いかつい鎧、龍が巻きついた檄。
軍神が連れてきたのは鬼神、まさかの呂布であった。
「な、なんの集団なのだコレは。」
司馬懿が思わず引いたのは、仕方がないことである。
「その時、君が笑った」
2008/08/04
<作者様より>
詰め込みすぎました;私の中で謙信はマイペース、そして司馬懿は政宗と並ぶ数少ない常識人ですが、政宗よりも頭に血が上りやすいためあんまりツッコミには回れそうにありません。呂布にまさかツッコミを求められるはずもなく、というかツッコまれたら死ぬ。そんな感じで政宗の苦労は続くといいなぁと思います。
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