上杉謙信と対峙すると政宗。

 部屋には3人しかいない。

 「して、儂に何用じゃ。」

 謙信の隣には一升瓶、片手には盃。
 さっきからぐいぐい飲んでいる。
 というか、自分たちが来る前から飲んでいたらしい。
 謙信がかなり酒を飲むことは、は何かの小説で読んでいたためそれに対してはなんら驚くことはないが、その量には目を瞠るものがあった。
 謙信のすぐ隣には一升瓶。
 それにはきっとまだ酒が入っているのだろう。
 問題は謙信の後ろに転がっている空き瓶たちだ。
 さすがに政宗も顔を上げた後、一瞬目が止まっていた。
 しかし酒にばかり目を留めていたのでは話が進まない。
 謙信の方から話を促され、と政宗は本日二度目、目を合わせた。

 「(プランBでいくわよ。)」
 「(計画その2じゃな。)」

 どちらも心の声である。
 目で会話するとはよく言ったもの。
 どちらも若干違うが、言いたいことは同じなのだ。
 プランB、即ち計画その2とは、直江兼続がいないときの謙信の口説き方だ。
 は第一に直江兼続が同じ部屋にいるバージョンと、第二に直江兼続がいないバージョンの口説き方を考えていたのだった。
 兼続がいれば、適当に義がどうのこうの言っておいて兼続を引き込み、3人で謙信を引き込むという戦法だったのだが、兼続がいなければ2人で謙信を引き込まなければならない。
 現実に今兼続はいない。
 よってプランB、即ち計画その2の兼続がいないバージョンで謙信を引き込む作戦となる。

 「遠呂智が復活しようとしていることは、謙信公はご存知ですか?」
 「最近見るからに人間ではない者があちこちで戦を起こしていることは耳にしておる。・・・・・・それが遠呂智のせいだと。」
 「そうです。まだ遠呂智は復活していません。しかし妲己を始めとする以前遠呂智についていた者達が遠呂智を復活させようとしています。」
 「暫く経っても元の世に戻らん理由はそれか。」
 「それは私にもわかりませんが、もしかしたらそういったことも含まれるかもしれません。・・・・・謙信公、」

 は一度言葉を切り、姿勢を正した。
 政宗は隣で黙っての言葉を聞いている。
 謙信もまた黙っての目を見た。

 「遠呂智討伐のためにあなたの力を貸していただけませんか。私たちは一度遠呂智に捕らえられた身。あ、政宗は知りませんが。」
 「儂のことは余計じゃ!」
 「遠呂智討伐のためには、復活し新たに力を手に入れた遠呂智を上回る力を持って遠呂智にあたらなければなりません。そのためには謙信公、どうしてもあなたの力が必要なんです。」
 「・・・・・・・。」

 謙信は少し考えるように口を噤んだ。
 遠呂智の力は、一度対峙し戦を通して知っている。
 それだけに、その遠呂智を野放しに出来ないことは謙信も重々承知している。

 「私たちは遠呂智に対抗すべく、遠呂智討伐のために仲間となってくれる武将を探しています。そのために戦が必要となるなら、それも厭わないと思っています。」
 「仲間を引き入れるために、戦を仕掛けるというのか。」
 「そうです。私たちはまず戦国時代の歴代の将軍である武田信玄、上杉謙信のどちらかをまず仲間にしようと話し合いました。」
 「その結果、儂となった。」
 「そうです。そして、仲間となっていただいた暁には、」

 そこではまた言葉を切る。
 政宗がごくりと唾を飲み込んだ。

 「武田信玄との直接対決、つまり戦をご用意したいと思っております。」
 「儂に信玄と戦えと申すか。」
 「真っ向から、あの信玄とぶつかってみたいとは思いませんか?」

 も唾を飲み込む。
 あの軍神と謳われる謙信と向き合っているのだ。
 元々普通の一般人であったにとっては多大なプレッシャーが今にもを押しつぶそうと圧し掛かっているが、今はそれに耐えるしかない。
 ぎゅっと両手を握る。

 「あいわかった。」
 「え!?」
 「!?」

 はばっと顔を上げた。
 政宗も言葉は発しなかったが、謙信の返事に驚きを隠せずに思わず身を乗り出した。

 「兼続!兼続はおるか!」
 「はっ!ここに!」

 謙信が大声で兼続を呼べば、兼続はすぐに飛んできた。
 なら最初から呼んでおいてくれよ!と思う二人だが、承諾してもらえたので今はもうよしとしよう。
 そうこう二人が考えているうちに兼続が部屋へと静かに、けれど速やかに入ってくる。

 「お呼びですか、謙信公!」
 「うむ。兼続、儂はこれから遠呂智討伐のために城を空ける。ここは任せたぞ。」
 「・・・・・え?」
 「は!?」
 「はぁー!?」

 ワンテンポ遅れて兼続が聞き返すように反応し、続いて政宗、が大声で身を乗り出して驚いた。
 それは驚くだろう。
 も政宗もこの城を拠点にし、動こうと思っていたのだから。
 謙信公、つまり上杉軍を配下につけ、そこから周りを取り込んでいく形を考えていたのだ。
 城が手に入らない。
 兼続も着いてこない。
 兵ももらえない。
 仲間になったのは、上杉謙信だけ。
 確かに謙信は軍略はある。
 軍神と謳われるほどの才も力も持っている。

 「けど・・・・・ねぇ?」
 「はぁ・・・・・・・。」
 「さ、ゆくぞ。」







 上杉軍の本拠地である春日山城の門前で、三者三様の表情を浮かべ、3人は城を後にした。

 『上杉謙信が仲間になった!』

 チャラララ〜、とRPGなら華やかな効果音付きでやった!と喜ぶ所だが、素直に喜べないこの状況に、謙信公一人が平然とした顔をして二人を残し先を歩いていく。
 そんな先を行く謙信の後ろで政宗が、

 「次に武将を引き込むときは、あなたの兵力も必要なんですと言え!いいな!」

 とに言った。
 そんな低い声でぼそりと忠告した政宗の声が、妙に耳について離れないであった。





「あなたの心、掴みに行きます。」





2008/07/29

 <作者様より>
 「上杉謙信の心を掴んだ!上杉謙信だけが仲間になった!拠点は手に入らなかった!」なんてテロップがヒロインと政宗の頭上(無双では下部ですか?)についたことでしょう。報われない政宗。彼らの仲間集め珍道中はしばらく続きそうです;






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