春日山城にある一角の部屋に、と政宗は通された。
 目の前には、あの軍神、毘沙門天の化身、越後の虎、越後の竜と様々な異名を持つ春日山城の城主、上杉謙信が座っていた。










 遠呂智軍から脱したと政宗は、近くの村で宿を取った。
 政宗が馬を走らせている間、追手を警戒して何度も後方を確認したのだが追っ手が来る気配はなく、も疲れたからと言って近くの宿を手配したのだ。
 政宗からすれば、ずっと寝ていたよりも馬をとばし、追手を警戒していた自分の方がずっと疲れていると言いたいだろうが、それを言う間もなくは宿へと入っていった。





 「ご飯美味しかったね、政宗!」
 「お前、遠呂智軍を裏切ったと自覚はあるのか?」

 あまりにも呑気なを目の前に、政宗は怒りを通り越して呆れた。
 追手が来るかもしれないという危機感はには皆無らしい。
 を見ていると、過剰に警戒していた自分がバカらしく見える。
 政宗は味噌汁を飲み干し、箸を置いた。
 お金を払って、取ってある部屋へとと共に戻る。
 空いている部屋が二人部屋しかなく、政宗がどうにか一人部屋をと宿主に懇願したが、が二人部屋でOKと承諾してしまったので二人は同じ部屋で寝床を共にしなければならなくなってしまった。
 政宗はまだ渋っていたが、は特に気にしていない。
 普通は逆だと、政宗は嘆いた。
 けれどそれに賛同してくれる人物はここには誰もいなかった。

 「で、これからどうするのだ。」
 「どうするってー?」

 敷かれた布団へすでにごろごろと横になるに、政宗は呆れた視線を向ける。
 危機感がないのか、自分を男と見ていないのか・・・・そこまで考えて、政宗は後者の考えを消した。
 けれどここで自分が「危機感を持て」だの小言を言ってもが真面目に聞くはずもないことを知っている政宗は、喉元まできている言葉を飲み込んだ。
 どのみち空いている部屋はここしかないのだ。



 「どこへ行っても戦はある。だが、儂ら二人だけでは到底戦えん。」
 「人数の問題か。・・・・なら、まずは仲間集めだよ!」
 「仲・・・・・は?」
 「全てはRPGから始まる。仲間集めは基本よね!」
 「何だその格言は。というかRPGとは何なのだ。」
 「ロールプレイングゲーム。」
 「??」

 政宗が首を傾げたが、はそれ以上説明をする気もないらしい。
 政宗もこれ以上に聞いてもわからないと悟ったのか、それ以上追求はしなかった。



 「とにかく、仲間を集めるのよ。そうすれば戦えるんでしょ?」
 「あぁ。で、誰を引き込むのだ?」
 「そりゃぁ、戦国時代で活躍した人といえばあの人しかいないでしょう!」
 「誰だ?」
 「武田信玄、もしくは上杉謙信!」
 「・・・・・既にどちらも自軍の兵を挙げて戦っているではないか。」
 「でも考えてみてよ!どっちかを味方に付ければ兵は手に入るし、強い武将も仲間になるし、まさに一石二鳥じゃない!?」
 「・・・・・儂はやはり選択を間違えたか?」
 「何の?」

 政宗はあからさまに盛大なため息をついて見せた。
 の言うことはいつも現実味を帯びていない、理解できないことばかりだ。
 政宗はに着いてきたことを(正確には連れてきたのは政宗だが)後悔した。
 けれど、そんな夢のような、ありえないことをはやってのけてしまう。
 戦場での戦いぶりを見てもそうだ。
 だから、のやることなすことを全否定することが出来ない。
 それは政宗も理解していた。

 「それに、武田信玄には勘助がついてる。」
 「山本勘助か?」
 「うん。なんかすごい軍師なんでしょう?」
 「まぁ、確かにすごい軍師だが・・・。」

 専門的なことは何も知らないにかかれば、武田信玄の伝説的軍師も「なんかすごい軍師」で形容されてしまう。
 そもそもは、勘助について詳しく知っているわけではない。
 以前見た大河ドラマで勘助が活躍している所をちらりと見ただけなのだ。
 なので、の中で勘助は「なんかすごい軍師」として認識されているらしい。

 「武田信玄も確かに強い武将だけど、勘助も一緒についてきてくれれば軍師も手に入るじゃない。」
 「ふぅむ。」
 「上杉謙信は軍神と謳われたほどの軍略を持っているし、雪国で育ってるから色んな季節に対しての防御とかには堅いと思うんだよね。」
 「で、どっちを引き入れるのだ?」
 「どっちの方がここから近い?」
 「選ぶ基準はそこなのか。」



 結局今達がいる村から近い上杉謙信を仲間に引き込むために、上杉謙信がいる春日山城へ行くこととなった。
 以前遠呂智が来てから大分時が経っているということもあり、この世界の地図が作られている。
 それを参考にしたのだ。
 と、いっても地形は少しずつ変わっているらしく、常に地図の内容が変わっていくらしいが、この際そんな細かいことを言っていられない。
 その日は一晩その宿で過ごし、次の日早朝から出発し二人は春日山城へと向かった。





 門番は訝しげに二人を見たが、尋ねてきたのが二人だけ、そして話の内容を聞き上杉謙信は改めて話を聞こうと二人を城へと入れた。
 二人が通されたのは客室だったが、手入れの行き届いたその部屋に、は思わず感嘆の声を上げた。
 もともと政宗はこういった和式の城で生活してきたのだ。
 政宗にとってはなんら珍しくないことも、もっと未来、ここで言えば別世界から来たにすれば珍しいものだらけなのだ。
 遠呂智軍にいた頃は独特な様式(曰く禍々しい感じ)の城だったので、このような城に入ることは始めての経験だった。
 けれど、城や部屋に見惚れている場合ではない。
 目の前に座る上杉謙信を、仲間へと引きずりこまなければいけないのだ。

 隣に並ぶと政宗は、挨拶に頭を下げながらお互い目配せをした。
 戦いはもう始まっているのだ!

 「面を上げよ。」

 と政宗が顔を上げる。
 薄らと笑みを浮かべる上杉謙信と、対峙した。





「全てはRPGから始まる」





2008/07/20

 <作者様より>
 ヒロインの言動にもやもやしたりする政宗。とても歯がゆく、さぞ胃を痛めていることでしょう。そんな彼らの仲間入りとして白羽の矢が当たってしまった軍神こと上杉謙信。彼が仲間に入ればそれは心強いですが、メンバー的にはとても微妙な感じになりますね!ビジュアル的にも性格的にも・・・。






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